自己肯定感とは?子どもの心を育む声かけと親ができること

豆知識

はじめに

近年、「自己肯定感」という言葉をよく耳にするようになりました。学校や職場、家庭でも「もっと自信を持っていい」「自分を認めることが大切」と語られますが、実際には「どうしたらいいのか分からない」という声も多く聞かれます。

2025年8月15日付の新聞記事でも、専門家が次のように語っていました。

  • 禅僧で精神科医の川野泰周さんは、瞑想を通して「自分を丁寧に見つめること」の大切さを紹介。

  • 青山学院大学教授・古荘純一さんは「自己肯定感は低くてもかまわない。小さな成功体験の積み重ねが力になる」と述べています。

つまり、自己肯定感は「一気に高めるもの」ではなく、日々の暮らしの中で少しずつ育んでいくものだと言えるでしょう。

本記事では、自己肯定感の基本的な意味や「自己有用感」との違いに触れながら、日常で実践できる声かけや、すぐに役立つチェックリストをご紹介します

 

自己肯定感とは?

自己肯定感とは、ありのままの自分を受け止め、存在そのものに価値があると感じる感覚のことです。

「できる自分」や「人に認められる自分」だけでなく、失敗したときや弱さを見せたときも「それでも自分は自分」と受け止められる心の土台だといえます。

心理学では、自己肯定感は「自尊感情(self-esteem)」とも呼ばれ、学業や人間関係、将来の挑戦において大きな影響を与えるとされています。

ポイントは、

  • 「できる/できない」で評価するのではなく
  • 「できてもできなくても自分には価値がある」と思えるかどうか

という点にあります。

自己肯定感が高い人の特徴

  • 失敗しても「また挑戦すればいい」と切り替えられる
  • 他人と比較せず、自分のペースで物事に取り組める
  • 人間関係の中で安心感を持ちやすい
  • 新しい挑戦に前向きに取り組める

自己肯定感が低いとどうなる?

  • 「自分はダメだ」と思い込みやすい
  • 他人と比べて落ち込み、行動にブレーキがかかる
  • 人からの評価に依存しやすい
  • 失敗や批判を極端に恐れる

子どもの成長過程では、学力や運動能力以上に、この「心の土台」が人生を左右します。

 

似ているようで違う「自己有用感」とは?

自己肯定感と並んで語られることが多く、よく混同される言葉に「自己有用感」があります。

自己有用感の意味

自己有用感とは「自分は人や社会の役に立っている」という感覚を指します。
たとえば、家のお手伝いをして喜ばれたときや、友達の相談にのって「ありがとう」と言われたときに感じる気持ちがこれにあたります。

自己肯定感との違い

  • 自己肯定感:存在そのものに価値を見出す感覚
  • 自己有用感:誰かや社会の役に立っていると感じる感覚

どちらも大切ですが、基盤になるのは「自己肯定感」です。
「役に立っていないと自分には価値がない」と感じてしまうと、失敗や休養の時期に自己否定に陥ってしまいます。

つまり、「存在を認める」自己肯定感の上に、「役に立てた」という経験が積み重なると自己有用感が育つという関係です。

まずは「役に立つかどうか」以前に、あなたは存在するだけで大切というメッセージを伝えることが重要です。

両方が育つと子どもにどんな力がつくか

  • 「挑戦してみよう」という前向きな姿勢
  • 人と協力して行動できる力
  • 自分の居場所を社会の中で見つける力
  • 生きる意欲や幸福感の向上

自己肯定感と自己有用感は、車の両輪のように子どもの心を支えるのです。

 

自己肯定感を高める声かけの工夫

自己肯定感は、親や周囲の日々の声かけの積み重ねによって育ち、子どもの自己肯定感を大きく左右します。
特に意識したいのは「結果」よりも「過程」に注目することです。

  •  結果より過程を認める
    「100点すごいね」ではなく「頑張って勉強したね」と努力のプロセスを評価。
  • 人と比較しない
    「お兄ちゃんはできたのに」ではなく、「昨日より今日のあなたの成長」を伝えることが大切です。
  • 「ありがとう」を伝える
    当たり前のことでも「ありがとう」と言葉にすることで、「自分の存在が役に立っている」という実感につながります。
  • 失敗を肯定する
    「できなかったね」ではなく「挑戦したこと自体が素晴らしい」と伝えることで、安心して再チャレンジできるようになります。

 

親ができること ―― 家庭で自己肯定感を育てる環境づくり

声かけとあわせて、環境面でできる工夫もあります。

  • 安心できる家庭環境をつくる(叱るより聴く姿勢)
    「失敗してもここに帰ってこれる」と思える家庭は、子どもにとって心の安全基地になります。
  • 小さな成功体験を積み重ねられる場を用意する(簡単な家事、役割分担)
    転んでも立ち上がれる経験が「挑戦していいんだ」という感覚を育てます。親が先回りして手を出しすぎないことも大切です。
  • 比較を避ける(兄弟や友達と比べず、その子自身の成長を喜ぶ)

  • 親自身の自己肯定感も大切に(親が自分を否定しすぎると、子も影響を受けやすい)
    親が「私はダメだ」と思い込んでいると、その姿は子どもに伝わります。自分を認める練習を親自身がすることも、子どもの力になります。

 

自己肯定感を育てるチェックリスト

これまで紹介した声かけや関わり方を振り返るためのチェックリストです。

項目 チェック ポイント
結果より過程をほめている 「100点すごい」より「毎日勉強を続けたね」と努力を認める
人と比較せずに声をかけている 「お兄ちゃんより」ではなく「昨日より今日の成長」を伝える
「ありがとう」を伝えている 当たり前の行動にも感謝を言葉にする
失敗しても挑戦を評価している 「またやってみようね」とチャレンジを肯定する
家が安心できる場所になっている 「失敗しても大丈夫」と思える雰囲気をつくる
子どもの気持ちを受け止めている 「そんなこと思っちゃダメ」ではなく「そう感じたんだね」と寄り添う
親が先回りしすぎない 手を出しすぎず「見守る」ことで挑戦の機会を与える
親自身も自分を認めている 「私なんて…」と言いすぎず、自分を肯定する姿を見せる
子どもの小さな成功を一緒に喜んでいる 「できたね!」と共感して達成感を共有する

すべてにチェックがつかなくても大丈夫です。できていないところに気づくことが、改善への第一歩になります。

 

まとめ

自己肯定感を持つことは、人生を生きやすくする大きな支えになります。しかし、それは決して「常にポジティブで完璧でなければならない」という意味ではありません。

川野さんが説くように、自分を見つめる静かな時間を持つこと。古荘さんが示すように、小さな成功や達成を積み重ねること。――この二つは誰にでも今日から取り入れられる自己肯定感の育み方です。

そして日常では、声かけや環境づくりを通して、子どもの「存在そのものの価値」を伝えることが欠かせません。

面談やカウンセリングでも、こうした「自分に気づくこと」「小さな前進を認めること」が、少しずつ人を楽にし、自分を信じる力につながっていきます。
あなたもぜひ、チェックリストを振り返りながら、日々の中で「できたこと」「大切にしたい自分」を見つけてみませんか。

 

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参考文献

川野泰周さんの本

プロフィール

川野泰周
精神科医・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・日本医師会認定産業医。1980年横浜市生まれ。2005年慶応義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。
2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。うつ病・不安障害・PTSD・睡眠障害・依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
またビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代などを対象に幅広く講演活動を行っている。著書、監修書多数。

  • 人生がうまくいく人の自己肯定感: 努力より、環境より、才能より大事なもの
  • 精神科医がすすめる 疲れにくい生き方

古荘純一さんの本

プロフィール

古荘純一(ふるしょう・じゅんいち)
青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。
1984年昭和大学医学部卒。88年同大学院修了。昭和大学医学部小児科学教室講師などを経て現職。
小児精神医学、小児神経学、てんかん学などが専門。発達障害、自己肯定感、不登校、ひきこもり、虐待などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもつ。小児の精神医学に関する論文も多数ある。
主な著書に『自己肯定感で子どもが伸びる――12歳までの心と脳の育て方』(ダイヤモンド社)、『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 児童精神科医の現場報告』(光文社新書)などがある。

  • 自己肯定感で子どもが伸びる 12歳までの心と脳の育て方
  • 「自己肯定感」を高めて自分を大切にしよう
  • 日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか
  • 不安に潰される子どもたち: 何が追いつめるのか
  • 空気を読みすぎる子どもたち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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